東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)315号 判決
審決取消事由の存否について、判断する。
成立に争いのない甲第一号証(本件意匠の意匠公報)及び甲第四号証によれば、本件意匠と引用意匠は、意匠に係る物品を「ホールソー」ないし「ホールカツター」とするものであるが、その態様は、いずれも、「a そのほぼ中央に下方を開口状とした円筒形状のスカート部を設け、その下端はこれを鋸歯状に切削し、b 該筒体の下方の中心部には、螺線状に切削した細長い円柱状のセンタードリルを突出状に取り付け、c 他方、筒体の上方には、柄を取り付けている」点において共通のものであることが認められる。
ところで、原告は、右a、b、cはホールソーやホールカツターの機能に支配される必然の形状であつて、ありふれた部分であり、これをもつて本件意匠及び引用意匠の要部とすべきものではなく、その具体的形状及び各部の比率の差異が本件意匠を引用意匠と異ならしめるものというべきであるから、審決(成立に争いのない甲第三号証)が、両意匠は右a、b、cの点において共通するところがあり、互いに類似するものであるとしたのは、その要部の認定を誤つたものであるとの趣旨を主張する。
しかしながら、審決は、本件意匠と引用意匠とを全体として比較し、両者の柄の下方部分の形状やスカート部の構成比の差異は前記a、b、cの共通点の中の部分的小差にすぎず、両意匠は全体として類似するとしたものであつて、前記a、b、cが両意匠の要部であるとしたものでないことはその判文上明らかであるから、審決は要部認定を誤つた違法のものであるとの原告の主張は理由がない。
そこで、次に、原告主張の本件意匠と引用意匠との差異点について判断する。
(スカート部等の構成比の差について)
本件意匠と引用意匠とは、スカート部の径と長さの構成比において若干の差があることは認められるが(原告の主張するところによると、スカート部の径と長さの構成比は、スカート部の径を1とした場合、本件意匠が一・六九、引用意匠が〇・八五である。)、意匠の類否はその各構成部分を総合した全体的なまとまりにおいて判断すべきものであり、意匠のある構成部分が特に看者の注意をひくかどうかについても、その構成部分が全体に対してどれだけ影響を及ぼしているかを全体的に考究すべきものであることにかんがみると、前記のスカート部の径と長さの構成比の差は、特に看者の注意をひくほど顕著なものということはできず、それは結局、本件意匠と引用意匠の前記共通点の中の部分的小差とみるべきものである(本件意匠と引用意匠のスカート部に切削された鋸歯状部分の形状は、成立に争いのない甲第六ないし第一四号証記載のものと異なつて、互いに類似するものと認められる。)。
しかして、スカート部以外の各部の構成比の差についても、両意匠の全体の類否を左右するほどのものは存在しない。
原告は、本件意匠のホールソーは、容易に解体しうるものであつて、スカート部の下端に超硬チツプが植設されていることにも帰因し、切り抜かれた廃材をスカート部の上方開口から排出しうるようにして、スカート部の長さに限界をなくしたものであり、その機能から生ずる形状はスカート部上方が閉塞されている従来のホールカツターである引用意匠とは異なる旨主張するが、本件意匠に係るホールソーのスカート部下端に超硬チツプが植設してあるとの点は本件意匠の願書に記載されておらず、また、本件意匠に係るホールソーが原告主張のような機能を有するとの点は、そのことが願書及び図面の記載から一見明瞭である場合のほかは意匠の類否判断の要素にはなりえないものである。しかして、先に述べたとおり、前記のスカート部の径と長さの構成比の差は、本件意匠と引用意匠とを全体的に観察するときは、共通点の中の部分的小差にとどまるとみるべきものである。
(柄の下方部分の形状の差について)
前掲甲第一号証、第四号証によれば、審決認定のとおり、本件意匠は、柄部の態様を、「柄部は上方を細長い角柱状とし、その下方はこれよりやや径の太い短い円筒部とし、その下方は二段状の短い六角柱状(本判決注、正確には円筒両側に平行する平面を削成してなる形状)に形成している」のに対し、引用意匠は、柄部の態様を、「柄部は上方を細長い角柱状とし、その下方はこれより径の太い短い円筒体に形成している」ことが認められ、両意匠の間に、柄の下方部分の形状に若干の差が存在するが、右の程度の差は、両意匠を全体的に観察するときは、共通点の中の部分的小差というべきものである。
原告は、本件意匠の柄の下方部分の二段の六角柱状は、一方は柄に形成され、他方は固定円盤の中央突出部に形成されているが、これは柄を螺回するときに固定円盤がこれに伴つて回動することを防ぐためであり、そのために創作された形状であつて、このことは外観上明瞭にあらわされていると主張するが、右二段の六角柱が原告主張のように形成されていることは図面代用写真上からはうかがい知ることができない。
右のとおりである以上、本件意匠と引用意匠とを類似とした審決の判断に誤りはない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。